1200MHz帯では、アマチュア無線は二次業務となっているためか、1200MHz帯の新しい無線機は選択肢が少なく、特にモービルとハンディ無線機は現行モデルがなくなってしまいました。
このため、1200MHz用の無線機は古い機種でも貴重で時々修理を依頼されます。
今回もローカルさんから、STANDARD製の430/1200デュアル C620の修理を依頼されました。
部品取りとして、姉妹機の144/430デュアルC520を預かりました。
C620 修理
C620の症状は、電源は入るものの受信できないというものでした。
分解して確認すると、電解コンデンサが派手に液漏れしていました。パターンの腐食もひどく、部品もいくつか脱落していました。また、PTTスイッチも固着していました。
表面実装の電解コンデンサが液漏れし、脱落しています。
他の電解コンデンサも液漏れしています。
特に、小容量の表面実装電解コンデンサは液漏れが激しいですね…
Sメータ調整VRも腐食でボロボロになって脱落していました。
C620のサービスマニュアルは入手できませんでしたが、C520のものは英語版をネットから入手できました。部品取り用のC520を開けて見比べてみると、C620のAF基板とは少し異なっていました。まぁ、ほとんどは同じでしょうから、これを参考にすることにしました。回路図なしでは修理する気になれません。今回RF基板は触らない(触れない)ことにします。
電解コンデンサは、全部交換することにします。
リード部品の電解コンデンサは、小型品が使われています。このサイズはなかなか入手できませんが、なんとか入手できました。液漏れした電解コンデンサの交換は本当に面倒です。はんだも外れにくいし、きれいにふき取るのも大変です。しかも、とっても臭い…なんでしょうね、男子トイレの臭いみたいな(笑) 四級アンモニュウム塩だからなんですかね?
脱落したSメータ調整用の表面実装VRは、手持ちがなかったため新規に購入しました。送料の方が高い…
いつも、送料が気になって、よほど高い部品でなければ予備も買ってしまい、どうせならとつい他の部品余分に購入してしまうので、部品のストックは増えるは、費用は嵩むし…
使わない部品代まではいただけませんからね。
PTTスイッチは、横型のものが手持ちになかったため、部品取り用のC520から取り外して交換しました。他のタクトスイッチは大丈夫でした。後でしらべたら、秋月電子で購入できそうですね。
電解コンデンサ、VRを外して、基板をアルコールで清掃し、新しいものと交換しましたが、
音声がでません。回路を追いかけてみると、音声回路に電源がきていません。液漏れによってパターンが腐食断線していました。切れたパターンを接続して音が出るようになりました。
バックアップ電池も電圧が低下していたので交換しました。
断線していたローカル電源は、デュアルトランジスタで組まれた定電圧回路でした。他にも似たような回路がいくつかあります。C620/C520の電源は単純に3端子レギュレータを使うのではなく、ディスクリートで電源が組まれていました。こうすれば、適切な電圧を供給/制御できるし、電源を分けることによりトランジスタの発熱を抑えることができますね。Q227はOPアンプ相当なので簡単でも性能は十分でしょう。
まぁ、今どきは3端子のLDOを使えば、場所もとらず安くできるのだと思いますけどね。
でも、やはり昔のエンジニアはすごいなと改めて感心しました。
Sメータは、受信レベルを表示するだけで、基本的に感度には影響しないのですが、やはり振れが小さいと感度が低いと感じる方も多いので、SGで簡単に調整しました。
C520 修理
部品取り用のC520ですが、C620がうまく修理できたので、こちらも修理してみることにしました。
依頼された局長さんは、U/Vのハンディを複数台お持ちなので、C520の修理は不要といわれていましたが、単に私の趣味と好奇心で修理することにしました。
C520の症状は、電源は入るが全く(キー)操作できない というものでした。
C620の修理に取り外したPTTスイッチは、そのうち新しく部品を購入する予定です。まぁ、たぶんこのC520で電波を出すことはないので、PTTは動作しなくても良いのですが。
C620とC520のAF基板は、少し違っていました。
C520は、ダイオードが飛ばされています。
C520の方が生産開始当初のもので、C620の方が後からの機種で回路等が見直しされたのでしょうか。
C520も新しいものは基板が修正されているかもしれません。
C520もSメータ調整VRが腐食してますね…
C520もC620同様全ての電解コンデンサを取り外し、アルコールで基板をきれいにしました。
必要なすべての部品を交換し、電源を入れると受信はするものの、キー操作ができません。周波数ダイヤルでの調整はできますが、バンド切り替えも動きませんでした。
でも、リセットするとキー操作できることがありました。
DISPLAY基板の故障かと考え、分解してみてもキーパッドは汚れもなくきれいです。AF基板とのフレキシブル基板も断線はしていません。
何度もリセットして確認したところ、CALLボタンを押すとキー操作ができなくなるようです。テンキーが動作しなくなっても、CALLキーは動作(操作音がするだけですが)します。回路図をみると、CALLキーはテンキーとは独立しています。
マイコンポートは、CALLとBACK UPポートが隣接しています。そして、直接飛ばされていたダイオードは、BACK UPにつながるスルーホールにつながれていました。マイコンの仕様がわかりませんが、BACK UPは電圧降下などのトリガでマイコンをスタンバイモードなどに移行するのでしょうか。CALLポートのH/LがBACK UPポートに影響しているような気がします。
よくみると、ダイオードの下にも電解コンデンサの液漏れがあるようでした。
アルコールで液漏れをきれいにしたら、キー操作も問題なくできるようになりました。
SGでSメータの調整を行い、ダミーロードをつないで出力、変調とも問題ないことを確認しました。
無事C520も復活しました。
C520の方がC620よりも症状は重かった(?)ものの液漏れの程度は軽かったです。たまたまでしょう。
この時代のSTANDARD機は、電源アダプターのコネクタがセンター ー(マイナス)です。
電源コードを作成し、他のトランシーバーに間違えてつながないように注意書きを貼り付けました。
なんとかC620,C520ともに復活し使えるようになりました。
でも、もう電解コンデンサ液漏れ機種の修理はやりたくありません。
臭いし、部品の交換は大変だし、パターンや部品を腐食してるし…部屋が臭くなってたまりませんわ。
ただでさえオヤジ臭っていれるのに(笑)
今は直っていても、スルーホールや部品の下に入り込んだ電解液を完全取り除くことはできないので、いつ動かなくなってもおかしくありません。そして、次の修理は更に難易度があがっていることでしょう。
今回は、貴重な1200MHz機ということで修理しましたが、よほどのことがなければ新しい無線機に買い替えるのが得策です。